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THE DANGEROUS CONTRABASS
  (あぶないコントラバス)CDより

                坂本 信 筆
たしかにコントラバスはあらゆる意味で「あぶない」楽器である。まず、図体が大きいので、日本のように住宅がぜまい国ではとくに、持ち運ぶときによほど注意をしていないと、どこかにぶつけて楽器が傷つくこもしれないし(あぶない)、誰かに怪我をおわせるかもしれない(あぶない)。(私は2階に置いているが、1階に下ろすときは、たいへんである壁にもあたるし、すべり落ちそうだしあぶないあぶない。)
 普通乗用車には入れにくいし(私の車には入れやすい、軽でも後ろが開いて後ろのシートが倒せるのでらくちんらくちん)入れたところで車内はたいへん狭くなり、他の人はだれもいっしょに乗りたがらない。女の人は特に。
 コントラバスは、チェロ、やバイオリンなどよりもはるかに大きな板を使って作られていて、その板も高級品は一枚モノである。それでいて、楽器の内側は塗装もしていないので、湿度の変化の影響をまともに受ける。日本では梅雨どきから夏の終わりにかけて湿度の執拗な攻撃にあう。欧州では過度の乾燥の問題があって、湿度を保つための短いゴムホースのような製品があり、中のスポンジ水分を含ませて、F字ホールに取り付ける気遣いが必要になる。それでも板は割れてしまう。(あぶない)トップの板が割れているのも珍しくはない。 
 楽器の問題ばかりではない。コントラバスは、演奏者にかける負担もまた大きいのである。20世紀最高のチェリスト、カザルスは「バイオリンよりチェロを弾くほうが難しいが、コントラバスはもっと難しい。」と語った。またリチャード・デイビスは、コントラバスはその大きさゆえに、バイオリンやピアノのように幼い頃から学ぶことが難しく、大学程度になっても他の楽器の演奏者に比べて習熟度の点で劣ることが多いと指摘している。 
 さらに途中で挫折した時のことを考えてみよう。バイオリンやトランペットなら、部屋の片隅で埃をかぶっていてもそれほど邪魔にはならないが、使いもしないコントラバスほど、日常生活に支障をきたすものはない。
 このように、コントラバス奏者として活動を続けることは、様々な面でリスクを伴うわけだが、文字どうり万難を排してこの不可思議な楽器の可能性を追求しようとするの男たちの集団が、このオルケスタ・ド・コントラバスというわけである。
オルケストラ・ド・コントラバスCD1枚目より
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